帝王といえば、マイルス・デイビスである。
ポートレイト・イン・ジャズ (新潮文庫)
では、p102から紹介されている。
ここでは、村上さんの文章は他と比べてより小説的で、物悲しい。
少しだけ引用させていただく。
『「フォア・アンド・モア」の中でのマイルズの演奏は、深く痛烈である。彼の設定したテンポは異様なばかりに速く、ほとんど喧嘩腰と言ってもいいくらいだ。トニー・ウィリアムズの刻む、白い三日月のように怜悧なリズムを背に受けながら、マイルズはその魔術の楔を、空間の目につく限りの隙間に容赦なくたたきこんでいく。彼は何も求めず、何も与えない。そこには求められるべき共感もなく、与えるべき癒しもない。』
まさに、その通りのアルバムなんだけれど、マイルスの音をこんなにも
見事に表現することは、村上さん以外誰もできないだろう。
その背景として、マイルスがやはり、圧倒的に魅力的なジャズミュージ
シャンであることも大きな理由でもあろう。
1991年に亡くなっているが、彼は、生涯その音楽を常に進化させ、
後ろを振り向くことはなかった。
古いファンからは、誤解される事があったかもしれないが、
彼は、立ち止まることなく前に進み続けた。
確か、ビル・クロウさんの「さよならバードランド」に書かれていた
が、晩年、若いミュージシャンがバップ(あるJAZZの形式)をやってく
れないかと頼んでも、マイルスは、頑として演奏しなかったそうだ。
僕が大学の3年生のときだったと思うが、東京公演が開催された。
最初の一曲目は、エアジンだったと思う。
アルバム的には、このアルバムぐらいのころだったと記憶する。

- アーティスト: マイルス・デイヴィス,マーカス・ミラー,フェルトン・クルーズ,マイク・スターン,ビル・エバンス,サミー・フィゲロア,アル・フォスター,ロバート・アービング
- 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
- 発売日: 2000/06/21
- メディア: CD
マイルスが、足をひきづるような演奏であったことと、更に彼の音楽を
進化させようとしている過渡期だった(だろう)せいで、一部のファン
からは、不評だったような記憶がある。
初心者の方にお勧めするとすれば、カインド・オブ・ブルーである。
ジャズ自体を象徴する一枚と言っても過言ではない。
1曲目の So What からガツンと魂がゆさぶられること間違いない。
ちなみに、ソーホワットは、マイルスの口癖だったそうだ。
帝王と言われたマイルスだが、帝王が帝王であるためには、
常に先頭を走る必要があったのかも知れないが、
ジャズという音楽を純粋に、深遠に追い続けただけだろうとも思う。
もう、「帝王」と呼ばれる人はあらわれないだろう。